だいちのこと嘘つき日記

本当と嘘とその間の隙間

僕の大好きな彼の話をする。
彼はいつも僕を助けてくれた。
良き友であり、時には良き師匠だった。
彼は世話好きで、いつもいろんな人のことばかり助けて。
自分のことはいつも後回しだった。
そんな彼は周りにも愛されていたし
そんな彼を好きになった女性も沢山いた。
彼は等しく優しくあろうとしたし、
謙虚であろうとした。
僕はそんな彼がとても大好きだったし
そんな男にそんな人になりたかった。

彼には奥さんもいなかったし
子供もいなかった
特定の恋人もつくろうとしなかった。
ただ、彼の周りにはいつも誰かがいて。
彼の周りはいつもハッピーだった。

彼と出会ったのは僕が20歳の頃だ。
彼は45歳で飲み屋で仲良くなった。
話をしていくうちに、とても仲良くなり
いつしか悩み事を相談したり、一緒に遊ぶ中になった。
彼は僕にいろんな遊びを教えてくれたし
女の口説き方や扱い方。何より生き方について教えてくれた。
いつも、にこにこ笑っていて、時には怒ったり、泣いたりした。

「だいちは昔の俺によく似ている。
 似ているけど、君の方が機転が利く。」
「僕はあなたみたいな人になりたい。」
「そんな大した人間じゃないよ。俺は。
 いろんな人を傷つけたし、傷つけて
 ただ、せめて優しくいようと思うだけさ。」

そういって、ゴッドファーザーを飲んで
タバコを吸った。

そして、彼は今はここにはいない。
最後に会ったのは、3ヶ月ほど前だった。
久しぶりに会った彼は、げっそり痩せていて
隣には若い女性が側についていた。

まるで、映画のような展開だ。
「だいち、僕はもう長くないんだ。」
そうにっこり微笑んだ。
彼が一人称を僕と言ったのはこの時くらいだ。
ハンサムで、びしっとスーツをきていた彼が
弱弱しく、とても今まで僕が会って来た彼とは違った。
「その女性はどなたですか?」
「はるかさんという人だよ。
 僕の面倒を見てもらっているんだ。
 もう自分じゃいろんなことが出来なくなってしまってね。」
「どーも、はるかです。」
はるかさんはとても優しそうな人だ。
「私は好きで面倒を見ているの。この人を愛しているからね。」
そう逞しく言った。
「この人がだいちさんに最後に会いたいというものだから。」
「私が変わりにメールしたの。」
「そうだったのですね。」

彼は話し始めた。
「だいちと会うのは久しぶりだね。いつぐらいぶりだろうか。
 君には話さないといけないことが、実はいっぱいあるんだけど
 聞いてくれるかい?」
「どうしたんですか。そんなに畏まって。」
「うん、僕は君に隠し事があるんだ。そして、それは君にとってとても
 ショッキングなことかもしれない。何も言わず聞いてくれるかな?」
「うん。」
「君と会ったのは僕が45歳で君が20歳の頃だったね。
 あれは渋谷のバーだったか。
 君は女に振られて、落ち込んでいて酒を飲んでいたね。
 僕が話かけて、君が笑いながら話したんだっけ。
 それから、少したってまた同じバーで飲んでいた時にまた会ったよね。
 僕は君の名前をその時知ったんだ。偶然かと思ったよ。
 僕は君の名前を25歳の時から知っていたんだ。
 そうだから、驚いた。だから、君にいろんなことを聞いたでしょ。
 出身地はどことか?何歳かとかね。

 それで僕は君が僕の知っている人の息子だと知った。
 そして、それは僕の恋した女の人の息子だ。
 僕は君を知っている。何故ならば、僕は君の遺伝子の半分は僕のだから。」

僕はびっくりして、何も反応が出来なかった。

「君の父親にも父親がいる。
 僕みたいな人が父親みたいに感じると
 僕は心が痛くなったよ。
 25歳当時僕は一人の女の人と恋をしていた。
 その人は人妻だった。僕は君のお母さんに恋をしていた。
 といってもとても淡いものだったけど。君のお父さんに僕の兄貴みたいな人だったから。
 その人の大切なものを傷つけたくなかった。
 君のお父さんは、どうも子供をつくることが出来ないからだだったらしく
 君のお母さんは子供が欲しかった。そして君のお父さんも。
 だから2人は僕にお願いしたんだ。精子を提供して欲しいと。
 そして、めでたく君が生まれた。」
 それから僕は、君の両親の前から姿を消した。
 だって、僕がいたらいろいろと面倒だろう。
 これは僕のわがままだ。僕はもう死んでしまう。
 人を育てたこともない。だけど、君に会うことが出来てよかった。
 ありがとう。」

それから僕は両親の元へ行き
その男の人と会ってきたといった。
2人は顔を合わせて、にっこり微笑んだ。
「いい人だったでしょ?元気だった?」
「うん。とてもいい人だった。」
そういっていろんな想いがあふれ出して涙がでてしまった。
それから、彼らはいろんなことを察していたのか、知らずか
若い頃の彼の話をした。そして、それは僕の知っている彼だった。
僕の両親と彼はとても仲の良い友達だったらしい。
母は彼がずっと好きだったらしい。それを聞いて、僕は笑ってしまった。
彼も母を好きだったらしいよっていったら。まぁ、あの人らしいわねと笑って。
父は少し嫉妬していた。父は彼と親友だったらしい。
そして、父はいつも彼に嫉妬していたらしい。
いつも彼に適わなくて、いつも輝いている彼が苦手でもあったと話していた。


そして、それから数日後
彼は亡くなった。お葬式にはいろんな人が来た。
びっくりしたのは、女の人がわんわんと泣いていた。
男の人も涙をしとしとと流していた。
ただ、みんなそれが終わった後は、笑いあって酒を飲んだ。
いろんな人が彼のことをいった。
そして、彼がどんなに魅力的だったか語った。


そこで僕は一人の女の子と出会った。
それが僕の恋のはじまりだった。