だいちのこと嘘つき日記

本当と嘘とその間の隙間

よくある話

よくある話。

隣に座っている女が悲しいと言って泣いていた。

入っているのは、焼酎の水割りで僕はしんみり飲みたいなと入ったバーで

そんな泣いている女を隣に飲むはめになるとは思わなかった。

ただしくしくと泣いている彼女に向かって、言葉をかけたいわけでもないし

ひたすらにめんどくさいと思いながら、その様子を伺っていた。

 

すると一人男が入ってきて

「さぁ、行くよ。」と言って手を握った。

「お会計はここに5千円おいておくから、これで賄ってくれ」

なんて言ってカウンターに手で強く叩いて、出ていってしまった。

「かっこつけるなら、一万円くらいおいておけばいいのに。」

そう思ったことを口に出してしまって少し恥ずかしそうにしていると、

また隣の女が今度は僕に話しかけてきた。

 

「あのひと、恋人かしら?」

「うん、どうでしょうか。」

あぁ~めんどくさい。僕は静かに焼酎の水割りを飲みたいというのに

なんでこうも女っていうのはめんどくさいんだ。

「でも、あの男の人も女の人もここではよく見ないわね。」

はぁ~そうですか、常連気取りですか。

手に持っているのはウイスキーですか。

氷の入ったグラスをゆっくりまわしながら、気取ったように言う

この気取った女は、なんなんだろうか。

「ねぇ、今日はじめて?この店は?」

常連じゃねぇ~の。なんでこんなこと言うの。

「あっはい。なんだか今日はゆっくり飲みたくて。」

「そうなの?私、結構ここに来るのよ。」

別に聞いてないけど!!別に聞いて無いけど、僕!!

というか、僕ゆっくり飲みたい言うたでしょ。

なんなんだ、このくそ女は。

「ねぇ、少しお話しない?」

こういうのもあるのか。

小説だけの話じゃないのか。そして、ゆっくり飲みたい。

僕はぼーっとゆっくり飲みたいのだ。

「あぁ~すみません。今考え事してて、聞こえなかった。」

よし、これで切り抜けるぞ。行けるぞ。

「ねぇ、少しお話しない?」

えっ?ここは普通、あっもういいわ。とか言うもんじゃないの?

どういうことだよ。これは。

「あぁ。はい。」

「あっ、良かった。」

無邪気に少女のように笑う女。

あぁ、これがギャップか。

こうやって男を落とすのか。

すごい。すごいドキドキしてきた。

「私ね。いつもここで飲んでるの。

 ここね。ご飯もすごく美味しいの。

 あんまり頼む人はいないけどね。」

「あぁ~、そうなんですか。」

そう言いながら、ぐ~っとお腹が鳴った。

そういえば、今日は何も食べて無い。

でももうすぐ時計は23:00だ。

そろそろ帰らないといけないなと思った。

「お腹なったよね?」

「まぁ、鳴りましたね。」

「カレーおいしいのよ。小さなハンバーグも乗ってる。」

「あぁ、それはとても気になりますね。でも、ほらもうそろそろ帰ろうかと。」

今日は気になるけど、帰ろう。

また、今度、来よう。

「そうなの。残念ね。」

「あまり話せなくて、ごめんなさいね。」

明日からはもっと女の子に優しくしよう。

きっと向き合えばいいだけなのだ。